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前橋地方裁判所 昭和34年(わ)156号 判決 1959年10月20日

被告人 佐田秀雄

明四五・一・一六生 無職

主文

被告人を懲役一年六月に処する。

未決勾留日数中六〇日を右の本刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は生来いん唖者であるが、

第一、(一) 昭和三四年一月一八日午後一〇時頃、前橋市榎町四番地センターパチンコ遊技店前の路上に置いてあつた新井正一(当時四二才)所有の中古自転車一台(時価三、〇〇〇円相当)を窃取し、

(二) 同年五月一六日午前四時頃、同市三俣町二、四〇三番地所在勢多農林高等学校バレー部の部屋にあつた同校生待小林貞夫(当時一八才)所有のトレーニングパンツ一着(時価一〇〇円位相当)を窃取し、

(三) 同月一八日午前一〇時三〇分頃、同市田中町五一番地鹿島建設株式会社前橋出張所自転車置場内にあつた前田光男(当時四七才)所有の中古自転車一台(時価三、〇〇〇円)相当を窃取、し

第二、昭和三四年一月末頃より、かねて知り合いであつた前橋市国領町二七一番地製材工市村正二(当時四四才、聾唖者)方に同居し、同人の妻市村しづ(当時四一才、聾唖者)に炊事其の他身のまわりの世話を受けるようになり、その頃より同女に対し、いたく恋慕するに至り、たまたま、右正二が飲酒の上些細なことにかこつけ、右「しづ」に対し暴行するに至ることありしため、被告人は右正二を次第に憎悪するに至り、機会を見て同人に対し、危害を加えてその鬱憤をはらさんものと考えおりたる矢先、右「しづ」の外出中なる同年五月一六日午前〇時過頃、右正二が同人の自宅奥六帖の間に就寝中なるを発見するや、同人を襲撃して日頃の憤懣を一時にはらさんものと考え、同人方にあつた金槌一挺を携え来り、矢庭に右金槌をもつて、右正二の前額部をめがけて殴打(一回)し、よつて同人に治療約十日間を要する前額部挫創の傷害を負わせ、

たものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人の判示第一の(一)(二)(三)の各窃盗の所為はいずれも刑法第二三五条に該当し、判示第二の傷害の所為は同法第二〇四条罰金等臨時措置法第二条第三条に該当するので情状により所定刑中懲役刑を選択し、被告人はいん唖者であるから判示各所為について刑法第四〇条後段を適用し法定の減軽をなし、以上の各所為は同法第四五条前段の併合罪に該当するから同法第四七条第一〇条を適用し犯情の最も重い判示第二の傷害罪の刑に併合罪の加重をした刑期の範囲で被告人を懲役一年六月に処し、同法第二一条を適用し未決勾留日数中六〇日を右の本刑に算入する。訴訟費用については被告人が貧困にしてこれを納付することができないことが明らかであるから、刑事訴訟法第一八一条第一項但書によりその全部を被告人に負担させない。

以上によつて主文のとおり判決する。

(裁判官 藤本孝夫)

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